近年、ChatGPTに代表される生成AIの進化は目覚ましく、私たちの仕事や生活に大きな変化をもたらしつつあります。その中で、「AIエージェント」という言葉を耳にする機会が増えてきました。さらに、「Agentic AI(エージェント的AI)」という少し聞き慣れない言葉も登場し、この二つの違いが分かりにくいと感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、この似ているようで本質的に異なる「AIエージェント」と「Agentic AI」の違いについて、分かりやすく解説していきます。
AIエージェントとは? – 古くて新しい「代理人」
まず、「AIエージェント」という概念自体は、実はAI研究の初期から存在する、古くて新しい言葉です。
簡単に言えば、AIエージェントとは 「環境を認識し、目標を達成するために自律的に行動する存在(プログラムやシステム)」
を指します。ここでのポイントは「自律性」です。人間の直接的な操作がなくても、ある程度の判断を行い、行動を起こす能力を持っています。
身近なAIエージェントの例
ロボット掃除機
センサーで部屋の障害物や段差を「認識」し、「部屋をきれいにする」という目標のために自律的に走行ルートを「判断」し「行動」します。
ゲームのキャラクター(NPC)
プレイヤーの動きを「認識」し、「プレイヤーを倒す」「街で生活する」などの目的に従って行動します。
スマートスピーカー
「音楽をかけて」という指示(環境からの入力)を「認識」し、音楽サービスと連携して「音楽を再生する」という目標を達成します。
このように、AIエージェントは特定の目的を達成するための「賢い代理人」と言うことができ、その範囲は非常に広い概念です。
Agentic AIとは? – 自ら「考え、計画し、実行する」AI
一方、「Agentic AI」は、特に近年の大規模言語モデル(LLM)の進化を背景に注目されるようになった、より高度な概念です。
Agentic AIはAIエージェントの一種ではありますが、その自律性のレベルが格段に高いのが特徴です。人間から与えられた曖昧で複雑な目標に対しても、自ら計画を立て、必要なツールを使いこなし、タスクを分割して実行していきます。
「Agentic」とは「主体性のある」といった意味で、その名の通り、AIがまるで人間のように主体的に振る舞う様子を表しています。
Agentic AIの能力と例
自律的な計画立案
例:「競合他社の新製品について調査し、強みと弱みをまとめたレポートを作成して」という曖昧な指示に対して、
①競合他社をリストアップ → ②各社の情報を検索 → ③情報を分析 → ④レポート作成 といった一連の計画を自ら立てて実行します。
ツールの自律的な使用
Webブラウザでの検索、コード実行、API連携など、複数のツールを組み合わせて活用します。
代表例
Auto-GPT
LLMに自律性を与えてタスクを自動実行する初期の試み。
Devin
「世界初の完全自律型AIソフトウェアエンジニア」として、ソフトウェア開発を遂行可能なAI。
【結論】決定的違いは「主体的な計画能力」と「タスクの複雑性」
AIエージェントとAgentic AIの違いをまとめると、以下のようになります。
比較項目 | AIエージェント (従来型) |
Agentic AI (エージェント的AI) |
---|---|---|
指示内容 | 比較的明確で、特定のタスク | 曖昧で、複雑・長期的な目標 |
行動の起点 | プログラムされたルールや単純な判断 | 自ら立てた計画に基づく |
自律性のレベル | 限定的(決められた範囲で行動) | 高度(目標達成のために柔軟に行動) |
ツール使用 | 基本的に単機能 | 複数のツールを自律的に連携・使用 |
一言で言うと | 指示されたタスクの「実行者」 | 目標達成のための「遂行者」 |
つまり、AIエージェントが「決められた仕事をこなす代理人」であるのに対し、Agentic AIは「目標達成のためにどうすれば良いか自ら考え、計画し、様々な道具を使って仕事をやり遂げる、極めて優秀なプロジェクトマネージャー兼プレイヤー」と言えるでしょう。
なぜ今、この違いが重要なのか?
Agentic AIの登場は、AIが単なる「便利な道具」から、自律的に業務を遂行する「パートナー」へと進化しつつあることを示しています。
将来的には、一人ひとりに最適化された「AI秘書」が複雑なスケジュール管理や情報収集を代行したり、専門的な業務の多くをAIが自律的にこなしたりする未来が訪れるかもしれません。
この二つの違いを理解することは、AI技術の最先端の動向を掴み、これからのビジネスや社会の変化に適応していく上で、非常に重要な鍵となるのです。